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【連載】リーンITと働き方改革(第三回)

働きがいを高めるコミュニケーションと組織文化

働きがいとはどういうことでしょうか?

多くの人が働きがいをどのように考えているか、厚生労働省が2014年に公表した「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」が参考になります。

同報告書は、人材確保が難しくなる状況を鑑み、人材確保のための魅力ある職場環境を作るため、「働きやすい・働きがいのある職場作り」を目指し、中小企業が実施している雇用管理制度と「働きやすさ」「働きがい」との関係を調査しまとめたものです。

その中の「働きがい」に関する部分では、働く人々が以下の環境を得ることによって、職場の人間関係が良くなり、働きがいを覚え、さらに労働生産性が高くなる傾向があることが示されています。

  1. 仕事の意義と重要性を理解する
  2. 従業員の意見を経営に反映する
  3. 仕事を任せられ裁量権を与えられる

リーンITが含むテーマは、まさにこれら働く人々が働きがいを実感できる環境を実現する指針になります。今回は、リーンITが働きがいの要素Ⓐ~Ⓒにどのように有効に働くかを見ていきます。

リーンITで取り扱うテーマ

リーンITで取り扱うテーマは、以下の通りです。

  1. 働く人々に裁量権を与える組織構造(権限委譲)
  2. 迅速なコミュニケーションを確実にする階層化した会議体
  3. パフォーマンス・ダイアログ
  4. 目で見る管理(Visual Management)
  5. 継続的改善
  6. リスペクト
  7. パラダイム・シフト
  8. 現地現物

これらのテーマは別々に機能するのではなく、有機的に結びついて効果を発揮します。①~⑤は組織運営に係わるテーマであり、直接的に働きがいの要素Ⓐ~Ⓒに関係します。⑥~⑧は人の行動様式に係わり、組織運営を側面から支援して、働きがいの要素を確実なものにするテーマと見ることができます。

働きがいに直接関係するテーマ

  1. 働く人々に裁量権を与える組織構造(権限委譲)

リーンITでは、「組織の中でお客様に最も近くに位置する人が最も良くお客様のニーズや期待を知ることができる」という考え方が基本にあります。従って、第一線で働く人が上司の指示を待つ仕事のスタイルではなく、一定の範囲で自ら考えて判断し、迅速にお客様の要求に応えられるように変わらなければならないとしています。つまり、第一線の人から経営者層まで、お客様の価値を創造するという仕事の目的を共有してŒその目的のために第一線で働く人が一定の範囲で裁量権を行使するということです。は「Ⓒ 仕事を任せられ裁量権を与えられる」そのものです。また、Œはその前提として「Ⓐ 仕事の意義と重要性を理解する」必要性を表しており、連載第1回に説明したリーンの原則の一つである「お客様の価値」に関係しています。

  1. 迅速なコミュニケーションを確実にする階層化した会議体

組織は、一般的に役員会・中間管理者層の会議・第一線の会議等、階層化した会議体を有します。リーンITでも階層化された会議体を想定していますが、上位層の会議は、下位層からの支援要請を迅速に検討しフィードバックすることに焦点を当てることに特徴があります。これは、毎日実施する第一線の会議の中で、第一線の裁量範囲を超えて上位層の支援を必要とする事柄をマネージャが吸い上げ、それらを上位層の会議で検討し迅速な支援を行うことを意味します。「従業員の意見を経営に反映する」ことに関係するといえます。また、従業員が活動するための障壁を取り除き、彼らが自ら判断(裁量)し、アウトプットを最大化できる環境を実現すること、即ち「Ⓒ 仕事を任せられ裁量権を与えられる」にも関係します。

  1. パフォーマンス・ダイアログ

パフォーマンス・ダイアログは、働く人とマネージャの対話であり、次の要素を含みます。

㋐ 目標を合意する

㋑ 支援を必要としないか確認する

㋒ フィードバック

㋐は、顧客価値を創造することをベースにして、働く人とマネージャが仕事の目標を合意することであり、「Ⓐ 仕事の意義と重要性を理解する」に強く関係します。㋑は、マネージャが働く人の活動に関心を持ち続け、必要な場合は適切に支援することを可能にし、混乱を未然に防止します。㋒は、対話した内容についてお互いの意見を明確に表明することを意味し、次のステップへの共通認識を確認します。

パフォーマンス・ダイアログは、肩の凝らない自由な雰囲気で行い、人々の創造性を育みます。

  1. 目で見る管理(Visual Management

日単位・週単位の掲示板、改善(または問題)掲示板を使用し、仕事や改善の進捗状況やパフォーマンスについての情報を「見える化」して共有します。ここで掲示される情報には、職場での打ち合わせ内容、支援を要請した上位層からのフィードバックが含まれ、「Ⓑ 従業員の意見を経営に反映する」を実感できます。

  1. 継続的改善

継続的改善は、改善が常に可能だという信念、小さいながら次のステップに進もうという信念を持ち、PDCAを継続して回すことです。既に発生した問題を解決することは当然のこととして、ここでは、小さいながら毎日違いを作るためのアイディアを出すことが推奨され、毎日の職場会議で吸い上げられます。これは「従業員の意見を経営に反映する」ことになる活動のひとつです。

働きがいを支援する行動様式

次の⑥~⑧は、行動様式に関するテーマですが、上記①~⑤を支援する基盤となります。

  1. リスペクト

マネージャが働く人へ尊敬を示すこと(Show Respect)は非常に大切です。彼らの声に耳を傾け、可能性を引き出す努力を怠ってはいけません。これは、お客様の価値を創造するという価値観を共有するためのコミュニケーションを促進する重要な要素です。

  1. パラダイム・シフト

「マネージャが指示し、働く人が指示されたことをする」という仕事の進め方から、「働く人はお客様の価値を創造するために活動し、マネージャは働く人がより良い方法を考えられるように質問し、活動の障壁を取り除く役割を果たす」という組織文化へシフトしなければなりません。

  1. 現地現物

マネージャが机上で管理する仕事のスタイルから、現場で会話をして問題を把握し、働く人を支援するスタイルに変わらなければなりません。第一線で働く人々の職場に赴き、実際の成果物やデータを自らの五感で感じ取り、働く人の適切な解答を導くため「なぜなぜ」を多用し、働く人の能力を引き出すように振る舞います。

働き方改革を成功させるには、先の調査報告書に示された「働きやすい・働きがいのある職場」を実現するための雇用制度が必要であると同時に、その制度に血を通わせることが欠かせません。

これまで説明してきたように、リーンITが提供する指針は組織文化の変化を促し、血を通わせる効果があり、その結果として生産性が高まることが立証されています。雇用制度の改革とリーンITは、補完関係にあると言えます。

リーンITによる働き方改革の最初のステップ

リーンITが示すコミュニケーションの在り方と組織文化がどのように働きがいに関係するかを見てましたが、リーンITはどのように始めるべきでしょうか?

リーンITに最初のステップはありません。ただ、最初は一部の人から始めて、段階的に組織的な活用に進化していくだけです。従って、今日から始めるというのが正解です。

連載一回で、「『必要な支援はないですか?』『何か手伝うことはないですか?』と言葉を交わしていますか?」と書きました。これは、リーンITが示す毎日短時間(15分)で行う以下のようにシンプルな会話の一部を示したものです。

  • 昨日の目標は達成できたか?
  • 何が良くできて、改善できることは何か?
  • 何を学んだか?
  • 今日達成すべきことは?
  • 助けが必要か?

リーンITは、このようなシンプルな会話をチームで毎日行うことから始め、その効果を実感しながら、段階的に組織的活動に広めて行くとよいでしょう。

会話の基本は、お客様とお客様が求める価値を理解した上で、ムダ、ムラ、ムリを削減することに貢献できているか、より良く貢献するために必要なことはあるかです。

連載(第二回)で紹介した「価値の流れ図(VSM)」は、このムダ、ムラ、ムリを見つけて、改善後の姿を見せてくれる有益なツールです。お客様の視点で最も改善が望まれるプロセスについてこれを描いてみることを推奨します。

まとめ

これまで述べてきたように、リーンITはお客様の価値をタイムリーにお客様に届けることを目指して、ムダ、ムラ、ムリを排除して生産性を高めます。メアリー・ポッペンディークとトム・ポッペンディークは、著書「リーンソフトウェア開発」の中で、アジャイル開発がリーンの考え方に由来することを詳細に述べています。「長年アジャイル開発に取り組んでいるものの思うように成果が出ない」という声を耳にすることがありますが、リーンの原則を再確認して取り組むことを提唱します。

もはや、リーンの考え方を理解することは、これからのIT分野に欠かすことができないものです。リーンITが、IT領域の共通言語となることを願って、連載を終えます。

リーンITの詳細は下記をご覧ください:

リーンIT:ただの流行か次 のレベルなのか?
【連載】リーンITと働き方改革(第一回)
【連載】リーンITと働き方改革(第二回)

Tags
Lean, リーンIT
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